〜泣かずに通えるようになるために、今できること〜
子どもが歯医者を嫌がって困っている――そんな悩みを持つパパママは少なくありません。治療の必要があっても、診察室にすら入れない、器具を見ただけで泣いてしまう…。これは小児歯科の現場で日常的に起きていることです。
しかし、実は「歯科嫌い」は予防も改善も可能です。この記事では、小児歯科でプロが実践している対応法を、心理学や行動科学の観点、最新の臨床例を交えてご紹介します。
目次
なぜ子どもは歯医者を怖がるのか?

恐怖の要因を分解する
子どもが歯科に対して抱く不安には、大きく以下のような要因があります。
不安のタイプ | 内容 |
視覚的恐怖 | 医療器具、白衣、マスクなど |
聴覚的恐怖 | 歯を削る音、吸引音など |
記憶的恐怖 | 過去の痛い・怖い経験 |
想像的恐怖 | 「痛いかも」「怒られるかも」という先入観 |
親の影響 | 保護者の不安や態度が伝染するケースも |
これらの恐怖は「まだ状況を正しく理解できない年齢」では特に強く出ます。歯科を「怖い場所」として刷り込まれる前に、いかにイメージを変えられるかがポイントになります。
小児歯科のプロが行っている5つのアプローチ

1. 初診で治療しない「トレーニング診療」
小児歯科では、初めての来院時にいきなり治療を行わず、「トレーニング」からスタートすることが一般的です。
- 椅子に座る練習
- 器具に触れてみる(鏡・バキュームなど)
- お口を開ける練習だけで終える
これにより、「ここは危険な場所じゃない」と本人が納得するところから始められます。
※厚生労働省の「小児歯科医療に関する実態調査(2022年)」では、約8割の小児歯科医院が初回に治療を行わずトレーニングを実施していると報告されています。
2. 行動変容技法「Tell-Show-Do法」
歯科恐怖症の子どもに効果的な技法が「Tell-Show-Do(テルトーショードゥー)」です。
- Tell(説明):「今から○○っていう風にするよ」と事前に伝える
- Show(見せる):器具を手に持ち、本人に見せたり触らせる
- Do(実行):実際に処置を行う
この段階的アプローチにより、予測可能性が高まり安心感が増すのです。これを丁寧に繰り返すことで、処置への抵抗はぐっと下がります。
3. 絵本・ごっこ遊びによる予習
家庭でもできる事前準備として有効なのが「歯医者さんごっこ」や歯科を題材にした絵本の読み聞かせです。
おすすめの絵本:
- 『はじめてのはいしゃさん』(童心社)
- 『こども歯医者へいく』(福音館書店)
- 『おくちのけんこうたいそう』(ポプラ社)
→読むことで歯科に対するイメージがポジティブに転換され、「ぼくも行ってみたい!」と思えるようになります。
4. 歯科医院選びの工夫
子どもが通いやすい歯科医院には共通するポイントがあります。
ポイント | 内容 |
小児専門または対応を掲げているか | 子ども専用スペース、専門スタッフがいるかどうか |
キッズスペースがある | 待ち時間をストレスなく過ごせる工夫 |
説明が丁寧 | 子ども・親双方にわかりやすい言葉で説明があるか |
通院頻度や雰囲気が合う | 無理なく通える距離・曜日なども考慮する |
初診の見学を受け入れている医院もあります。「治療ではなく、見に行く日」を一度作ることで、本人の警戒心を和らげることができます。
5. ポジティブ・フィードバック
診療後、ほんの少しでもがんばったことを必ず褒めてあげることが大切です。
- 「今日は椅子に座れたね!」
- 「お口をあーんってできてすごいよ!」
- 「がんばったからシールもらおう!」
この“ごほうび”が行動強化となり、「次も頑張ろう」に自然とつながります。
※認知行動療法の一つ「正の強化(positive reinforcement)」として有効であることが複数の臨床研究で示されています。
親ができる!歯科嫌いを防ぐ3つのコツ

1. 歯医者の話題は前向きに
「注射みたいで痛いから静かにしなさい」「言うこと聞かないと歯医者連れてくよ」はNG。
→歯医者=罰という印象を与えないように、「歯をきれいにするお手伝いをしてくれるところだよ」とポジティブな声かけを心がけましょう。
2. 自分の治療体験は話しすぎない
大人の「昔の怖かった話」や「麻酔が痛かった」という記憶を共有しないようにしましょう。知らなかった不安を逆に増やしてしまうことがあります。
3. できたことを小さくても褒める
「泣かなかったね」ではなく、「椅子に座れたね」「大きく口を開けられたね」と具体的に評価すると効果的です。
まとめ:歯科は“慣れる場所”から始めよう

歯医者が嫌いな子どもが、一度で好きになることはありません。しかし、段階を踏んで、「行ってみたら怖くなかった」「ちょっとだけがんばれた」という体験を積み重ねることで、いつの間にか泣かずに通えるようになる子どもは多いのです。
最後に大切なのは、「嫌がっても怒らず、見守る姿勢」。パパママの安心した表情こそが、子どもの心を落ち着かせ、前向きな行動を引き出す最大の力になります。
歯医者は、虫歯を治す場所であると同時に、子どもの成長を見守る場所でもあります。ぜひ、家庭と歯科医院がチームになって「歯科嫌いゼロ」の未来を目指していきましょう。