「歯並びが悪くなってきた気がする」「子どもの前歯が出ているかも」――その原因、実は“口呼吸”かもしれません。近年、小児を中心に口呼吸の習慣が問題視されており、歯並びだけでなく全身の健康にも影響することが分かってきました。この記事では、口呼吸がもたらすリスクや、鼻呼吸への改善方法(トレーニング法)について詳しく解説します。
口呼吸と歯並びの関係とは?

私たちの顔や口の周囲の筋肉、舌の位置は、歯の並びに大きな影響を与えています。通常、舌は上あごの内側に軽く触れており、頬や唇とバランスを取りながら歯を正しい位置に支えています。
しかし、口を開けたまま呼吸する習慣(口呼吸)が続くと、舌の位置が下がり、歯を外側から押さえる筋力が働かなくなります。その結果、以下のような問題が起こりやすくなります。
影響 | 内容 |
出っ歯(上顎前突) | 舌で前歯を押すような癖がつき、前歯が突出 |
開咬(上下の前歯が噛み合わない) | 口が開いたまま癖づき、噛み合わせがズレる |
顔貌の変化 | 「アデノイド顔貌」と呼ばれる骨格的な変化(口元が出る、顎が細い等) |
このような歯並びの悪化は、見た目だけでなく「咀嚼しにくい」「発音しにくい」といった機能的な問題も引き起こします。
データが示す「口呼吸児」の増加

日本小児歯科学会による調査では、小学生の約3〜4人に1人が口呼吸をしている可能性があると報告されています(参考:小児歯科学会雑誌 2018年)。さらに、2020年以降のマスク生活が習慣化したことで、鼻呼吸の機能が弱まり、無意識のうちに口呼吸にシフトしている子どもも増えていると指摘されています。
また、成人でも鼻詰まりや花粉症、ストレスなどが原因で慢性的な口呼吸に移行するケースも多く、歯列矯正を開始しても“呼吸の癖”を改善しなければ後戻りしやすいとも言われています。
鼻呼吸のメリット

口呼吸を鼻呼吸に改善することで、歯並びだけでなく健康全体に良い効果が期待できます。
呼吸方法 | デメリット/メリット |
口呼吸 | 歯並び悪化、虫歯・歯周病リスク増、口臭、睡眠の質低下、免疫力低下 |
鼻呼吸 | 鼻毛や粘膜によるフィルター効果、唾液分泌促進、顔面筋バランス維持、質の高い睡眠 |
鼻呼吸は、口腔内を乾燥から守るため、虫歯や歯周病のリスクを軽減します。また、舌が上あごに自然と付くことで、歯並びを支える力が働きます。
鼻呼吸に戻すためのトレーニング法

ここでは、家庭でできる代表的な「鼻呼吸トレーニング」を3つ紹介します。いずれも継続することで習慣化しやすく、子どもでも取り組めます。
① 唇を閉じる筋トレ「あいうべ体操」
福岡の内科医・今井一彰医師が提唱した口腔筋トレーニング。以下の動きを1セット×3回を1日2回。
- 「あ」…口を大きく開ける
- 「い」…口角をしっかり横に引く
- 「う」…唇を前に突き出す
- 「べ」…舌を思いきり下に出す
※ゆっくりはっきり行うのがコツです。
② 舌の正しいポジションを意識する
鼻呼吸では、舌は「スポット」と呼ばれる上あごの前歯裏(硬口蓋)に軽く付けている状態が理想です。
- 日中や就寝前に鏡を見て「舌の位置が下がっていないか」確認する
- 舌先が下顎の歯の裏についていると口呼吸の兆候
※歯科医院によってはMFT(口腔筋機能療法)で専門指導を受けられます。
③ 鼻呼吸専用のマウステープを使う
寝ている間の口呼吸を防ぐため、市販の「口閉じテープ」を貼る方法もあります。無意識に口を開けてしまうタイプの方に効果的です。
歯並び矯正と呼吸の関係:併用が重要

矯正治療中の患者さんの中には「矯正後に歯が元に戻ってしまった」という声も。原因の一つが呼吸法の未改善です。
矯正専門医の中には、治療前から鼻呼吸指導を取り入れる医院も増えており、呼吸習慣と矯正治療は「両輪」で進めるべきと考えられています。
まとめ:まずは呼吸を見直すことから

「歯並びが悪くなった」「子どもがポカン口でいる」そんなときは、まず呼吸の仕方に目を向けてみましょう。
- 口呼吸は歯並び、虫歯、顔貌、全身健康にまで影響
- 鼻呼吸は免疫力アップ・見た目改善にも効果的
- トレーニングを継続すれば習慣は変えられる
歯科医院では、矯正やMFT、鼻腔拡張の相談にも対応しています。気になる方はぜひ一度、歯科医師に相談してみてください。呼吸を見直すことが、人生の“質”を変える第一歩になるかもしれません。