「アンチエイジング」と聞くと、スキンケアや運動、食事制限といったイメージが浮かぶかもしれません。けれど、実はもっと身近な習慣――“よく噛む”ことが、若さを保つうえで非常に大切なカギになることをご存じでしょうか?
歯や口の役割は「食べる」だけではなく、顔の筋肉や表情、さらには脳や全身の健康にまで深く関わっています。今回は、噛む力とアンチエイジングの意外な関係を、専門的な視点から分かりやすく解説していきます。
噛むことの基本的な役割

まず、私たちは食事の際に「噛む」という動作を無意識に行っていますが、実はこの行為には多くの働きがあります。
働き | 具体的な内容 |
---|---|
咀嚼(そしゃく) | 食べ物を細かくし、消化を助ける |
唾液の分泌促進 | 消化をサポートし、口腔内の自浄作用を高める |
味覚の感知 | よく噛むことで味を感じやすくなる |
脳への刺激 | 顎の動きが脳に刺激を与え、集中力や記憶力の向上に役立つ |
表情筋の活性化 | 頬や口元の筋肉を鍛え、たるみやシワを防ぐ |
こうして見ると、単なる「食べる動作」以上の働きを持っていることが分かります。中でもアンチエイジングという観点から注目すべきは、脳の活性化と顔周りの筋肉刺激です。
噛む力と脳の関係:若さは“脳”から作られる?
噛む刺激が脳を活性化するメカニズム
咀嚼による顎の動きは、脳の前頭前野(記憶や判断を司る部分)を刺激することが分かっています。特に、高齢者においては、しっかり噛むことが認知機能の維持や向上に有効であるという報告がなされています。
また、朝食をしっかり噛んで食べる子どもは、授業中の集中力が高まりやすいというデータもあり、「噛むこと=脳の目覚まし」と言えるかもしれません。
噛む回数が減るとどうなる?
噛む回数が少なくなる原因には、柔らかい食べ物の増加、歯のトラブル(虫歯・歯周病・入れ歯の不具合など)、早食いの習慣などが挙げられます。これらが積み重なると…
- 脳への刺激が減少し、認知機能が衰えやすくなる
- 唾液が減り、虫歯や口臭のリスクが増加
- 表情筋がたるみ、老け顔の原因に
つまり、しっかり噛める口腔環境を維持することが、心身ともに若々しさを保つ第一歩なのです。
噛むことがもたらす美容効果とは?

噛む力は、美容の面でも注目されています。特に口元から下の「顔の下半分」の印象は、見た目年齢を大きく左右する要素。以下のような効果が期待されています。
1.フェイスラインの引き締め
食事中によく噛むと、咬筋(こうきん)や側頭筋、口輪筋などの表情筋が刺激されます。これらの筋肉が衰えると、ほうれい線や二重あご、顔のたるみが目立ちやすくなりますが、噛む力で日常的に鍛えていれば、リフトアップ効果や小顔効果も期待できます。
2.唾液の増加による美肌サポート
噛むことで唾液が分泌されると、口腔内の洗浄作用だけでなく、消化吸収がスムーズになり、栄養が肌までしっかり届くようになります。また、唾液に含まれる成長因子や抗酸化物質も、老化を抑制する一因として注目されています。
3.ストレスの軽減
噛む行為には、リズミカルな運動によってストレスホルモン(コルチゾール)を抑える効果があるとされています。日常生活の中で、無意識に歯を食いしばることが多い方こそ、食事の際にしっかり噛んでストレスを“リリース”することが重要です。
1日どれくらい噛んでいる?現代人と昔の違い
戦前の日本人は1回の食事で約1400回噛んでいたのに対し、現代人は約600回にまで減少していると言われています。
さらに、1口あたりの咀嚼回数も昔は30回以上が普通だったのに対し、現代では10回未満で飲み込んでしまうことも珍しくありません。
時代 | 1食あたりの咀嚼回数 | 主な理由 |
---|---|---|
昔(戦前) | 約1400回 | 硬い食材や繊維質の多い食事が主流 |
現代(令和) | 約600回 | 加工食品・柔らかい食事の増加、早食い習慣 |
この咀嚼回数の減少が、肥満・糖尿病・口腔内トラブル・老化の加速といったリスクを高めていると考えられています。
よく噛む習慣を身につけるためのポイント
1.「噛みごたえのある食材」を取り入れる
食事に根菜、玄米、大豆製品、ナッツ類、干物、きのこなど、自然に咀嚼回数が増える食材を意識して取り入れてみましょう。噛む回数が増えることで、満腹中枢も刺激され、食べすぎ防止にもつながります。
2.「一口30回」を目指す
最初は難しく感じるかもしれませんが、一口30回を目安に噛むことで、自然と唾液が出て消化もスムーズになります。慣れてきたら咀嚼回数を意識しなくても自然に「よく噛む」スタイルが身についていきます。
3.姿勢を正して食べる
背筋を伸ばし、足をしっかり床につけて食べることで、顎の動きがスムーズになり、噛む筋肉も自然に使えるようになります。姿勢を正すことも、実はアンチエイジングの近道です。
噛む力をサポートする歯科ケア

いくらよく噛もうと思っても、「歯が痛い」「入れ歯が合わない」「噛み合わせがズレている」といったトラブルがあっては、本末転倒です。若々しい印象を保つには、噛める口腔環境づくりが不可欠です。
- 定期的な歯科検診で虫歯・歯周病の早期発見を
- 歯列矯正やインプラント治療で噛み合わせを整える
- 入れ歯・ブリッジの違和感は我慢せず、歯科医に相談を
- 歯ぎしりや食いしばりがある人は、ナイトガードの活用も有効
歯を1本失うと、噛む力は30〜40%低下するとも言われており、1本の歯の重要性を見直すことが“若さ”への第一歩です。
まとめ:噛む力こそ、あなたの“若さの源”

「噛むこと」は、私たちが毎日当たり前に行っている行動ですが、その積み重ねが見た目の若さ・身体の健康・心の安定にまで影響を与えているとしたら、ただの習慣では済まされません。
- よく噛むことで、脳が活性化し、記憶力や集中力がアップ
- 顔の筋肉が鍛えられ、フェイスラインが引き締まる
- 唾液が増えて、肌や消化吸収、美肌にも効果的
- 咀嚼のリズムが、ストレスを軽減し自律神経を整える
そしてなにより、「噛める健康な歯」を保つことが、自信のある笑顔と、生き生きとした毎日につながるのです。
今日からできる“噛む”アンチエイジング、あなたも始めてみませんか? 健康も美しさも、まずは一口から――その一噛みが、未来の自分を変えてくれるかもしれません。