「歯並びが悪くなったのは、舌のせい?」
一見関係なさそうに思える「舌の位置」ですが、実は歯並びや噛み合わせに大きな影響を与える要素の一つです。
私たちの舌は、1日に約2000回以上も上下に動いています。
その舌の力が歯に微妙な圧力を与え続けることで、歯列の形を変えてしまうことがあるのです。
この記事では、舌の位置が歯並びに与える影響や、正しい舌の位置を維持するためのトレーニング方法を、専門的かつ分かりやすく解説します。
目次
正しい舌の位置とは?あなたの舌はどこにありますか?

まずは、自分の舌の位置を意識してみましょう。
何もしていないとき、舌はどこにありますか?
正しい位置(=安静時舌位)は、次のようになります。
- 舌先が上の前歯の少し後ろ(上顎のくぼみ「スポット」と呼ばれる部分)についている
- 舌全体が上あごに軽くくっついている
- 唇は軽く閉じ、歯は触れない
この状態が維持されていると、舌は歯を外側から押す「頬の筋肉」と内側から押す「舌の力」のバランスを保ち、理想的な歯列をキープします。
しかし、舌が下がっていたり前に出ていたりすると、そのバランスが崩れ、歯並びに悪影響を及ぼすことがあります。
舌の位置が悪いと起こる歯並びの変化

舌の位置が間違っていると、舌の圧力が歯に偏って加わり、歯が少しずつ移動してしまいます。
歯並びが崩れる主な原因をまとめてみましょう。
| 舌の位置 | 起こりやすい歯並びの乱れ | 特徴 |
| 舌が前方に出る(舌突出癖) | 出っ歯・開咬(前歯が閉じない) | 発音時に舌が見える・サ行が言いにくい |
| 舌が下に沈む | 叢生(歯が重なり合う) | 下の前歯が前に出る・歯列が狭くなる |
| 舌が片側による | 左右非対称の歯並び | 顎の歪み・顔の非対称 |
| 舌が上あごに付かない | 奥歯が噛み合わない | 噛み合わせが浅くなる |
このように、舌のわずかな位置のズレでも、歯列全体の形が変わってしまうのです。
なぜ舌の位置で歯が動くのか?

歯は、常に「内側からの舌の圧力」と「外側からの頬や唇の圧力」のバランスによって支えられています。
1日あたり約2000回の飲み込み動作(嚥下)で、舌が前方に押し出されると、
前歯に1回あたり約1〜2グラムの力が加わるといわれています。
一見わずかな力ですが、これが年単位で繰り返されると歯は確実に動くのです。
矯正治療で歯を動かす際も、同じくらいの微弱な力を継続的にかけています。
つまり、舌癖による力は、矯正と同等の影響を及ぼす可能性があるということです。
舌癖の原因は?意外と多い現代人の「低位舌」

舌の位置が下がる「低位舌(ていいぜつ)」は、現代人に急増しています。
原因は、生活習慣や身体の使い方の変化にあります。
| 原因 | 内容 |
| 口呼吸 | 舌が下がり、口を開けたままになる |
| 姿勢の悪さ | スマホ・PC使用で頭が前に出ると舌も下がる |
| 柔らかい食事 | 噛む回数が減り、舌の筋肉が衰える |
| アレルギー性鼻炎 | 鼻が詰まり口呼吸になる |
| 幼少期の指しゃぶり・頬杖 | 舌・顎の位置が歪む |
このような習慣が積み重なると、舌が正しい位置を保てず、歯列の発育にも影響を与えます。
特に子どもの場合、低位舌が長く続くと、歯列不正(出っ歯・開咬)や顔の成長バランスの乱れに直結します。
舌の位置を整えることで期待できる効果

舌を正しい位置に戻すことは、単に歯並びだけでなく、全身の健康にも好影響をもたらします。
| 効果 | 内容 |
| 歯並びの安定 | 舌の力が均等に伝わり、矯正後の後戻りを防ぐ |
| 顎の成長バランス改善 | 下顎が正しい位置に誘導される |
| 鼻呼吸の促進 | 口呼吸が減り、免疫力が向上 |
| 姿勢の改善 | 舌が上がることで頭の位置が正しくなる |
| 発音の明瞭化 | サ行・タ行などが滑らかに発音できる |
つまり、「舌の位置を整える=顔全体の印象を整える」ことにつながるのです。
舌癖を改善するためのトレーニング方法

舌の位置を正すためには、筋肉を鍛える「MFT(口腔筋機能療法)」が効果的です。
自宅で簡単にできるトレーニングをいくつか紹介します。
舌スポットトレーニング
1.舌先を上の前歯の少し後ろ(スポット)に置く
2.その位置のまま舌全体を上顎に密着させる
3.5秒キープ×10回を1日3セット
舌押し出しトレーニング
1.舌先を上前歯の裏に軽く当てる
2.歯を押さずに、舌だけで前に押すように力を入れる
3.5秒キープ×10回
ストロー呼吸法
1.ストローを口にくわえ、鼻で呼吸する
2.舌を上顎につけて飲み込む練習を繰り返す
これらを継続することで、舌の筋肉が強化され、自然と上あごにフィットするようになります。
舌癖と矯正治療の関係

実は、矯正治療をしても「舌癖」が残っていると、歯が元の位置に戻る(後戻り)リスクが高まります。
そのため、矯正中や矯正後にMFTを併用することが推奨されています。
| 状況 | 舌癖がある場合 | 舌癖を改善した場合 |
| 矯正中 | 歯が予定どおり動かない | 治療がスムーズに進む |
| 矯正後 | 後戻りのリスクが高い | 安定した歯列を維持できる |
| 日常生活 | 発音・姿勢に影響 | 自然な表情と発声が可能 |
「舌を整えること」は、矯正を成功させる“最後のピース”といえます。

まとめ:舌の位置を整えることが美しい歯並びの第一歩
舌は「見えない矯正装置」とも呼ばれるほど、歯列や顎の発達に密接に関係しています。
舌の位置が悪いままでは、矯正治療をしても長期的な安定は得られません。
- 正しい舌位は「上あごに舌が密着している状態」
- 舌が前・下にあると出っ歯や開咬の原因に
- MFTトレーニングで改善可能
- 矯正と併用することで理想の歯並びを維持できる
「歯並びを整える前に、まずは舌を整える」
それが、美しい笑顔を長く保つための新しい常識です。