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噛むことは「脳トレ」だった?知られざる咀嚼のパワー

「最近、柔らかいものばかり食べている」「入れ歯にしてから、噛むのが億劫になった」
そんな日常の些細な変化が、実は“脳の老化”を加速させているかもしれません。
近年、歯科と脳科学の研究が進む中で、「噛む力の低下」が認知症のリスク要因となることが注目されています。特に高齢化が急速に進む日本において、口腔機能と認知機能の関係性は、予防医療の新たな焦点になっているのです。
なぜ噛むと脳が活性化するのか?そのメカニズム

咀嚼(そしゃく)は、単なる食物の粉砕ではありません。「噛む」ことそのものが脳の働きを刺激する運動だと考えられています。
生理作用 | 内容 |
脳の血流促進 | 咀嚼により脳への血流が増加し、酸素とブドウ糖が供給される |
海馬への刺激 | 記憶を司る「海馬」に直接刺激が届き、記憶力が向上する可能性 |
セロトニンの分泌 | 精神を安定させるホルモンが分泌され、ストレスが軽減される |
ある動物実験では、奥歯を失ったマウスに記憶力の低下が見られたという報告も。さらに、歯を失ってもインプラントなどでしっかり噛めるようにすると、認知機能の維持が期待できるという人間の研究結果も複数存在します。
歯の喪失がもたらす脳への深刻な影響

では、なぜ「噛めない状態」が脳に悪影響を及ぼすのでしょうか?以下のような悪循環が指摘されています。
・咬合支持域(こうごうしじいき)の喪失
奥歯を失うと、上下の歯がしっかり咬み合うポイント(支持域)が減り、噛む力が低下します
・咀嚼効率の低下
噛めないことにより食物が十分に細かくならず、消化にも負担がかかります。
・社会性の低下と活動性の減退
噛めないことで会話や笑顔が減り、結果として社会的交流も減少。脳への刺激が少なくなり、認知症のリスクが高まります。
補綴(ほてつ)治療で噛む力はどこまで回復できる?

歯を失った後でも、補綴(入れ歯・インプラント・ブリッジ)によって噛む機能はある程度回復可能です。
補綴方法 | 咀嚼力の回復度 | 脳への刺激 | 解説 |
総入れ歯 | 10〜30%程度 | 限定的 | 噛む力が弱く、脳への刺激も不十分なことが多い |
部分入れ歯 | 30〜50%程度 | 中程度 | 隣の歯で支えるため、フィット感によって差が出る |
インプラント | 80〜90% | 高い | 顎骨と結合し、強い咬合力が得られるため脳への刺激が高い |
中でもインプラントは脳への刺激を最も再現できる補綴方法として注目されています(出典:厚生労働省「歯科保健医療の推進」2020)。
歯を守ることが、脳を守ることにつながる

日本補綴歯科学会や国立長寿医療研究センターの研究によれば、残存歯数が20本以上ある高齢者は、10本未満の人に比べて認知症の発症リスクが約半分になると報告されています。
認知機能を守るために、今日からできること

噛む力と認知機能の関係が明らかになった今、日常生活で意識すべき行動も変わってきます。
・よく噛んで食べる習慣を持つ(1口30回が目安)
・定期的に歯科検診を受ける(年2〜3回)
・歯周病を予防する:日本人の歯の喪失原因の1位
・義歯が合わない場合は放置せずに相談
・「咬合崩壊」の兆し(噛みにくさ、片側ばかりで噛む)を感じたら早期受診を
歯科医院選びも「脳の健康」の一部

「歯の治療=虫歯や歯周病の予防」と考える方は多いですが、実は“認知症予防の一環”でもあるということを意識することが重要です。
・しっかり噛める補綴治療を提供しているか?
・噛み合わせ(咬合)のバランスを重視しているか?
・咀嚼効率や咬合支持域といった機能面も説明してくれるか?
これらの観点で歯科医院を選ぶことが、将来の健康に大きく影響するのです。
まとめ:歯を守ることが、あなたの未来を守ること

「硬いものが噛みにくい」「入れ歯を外す時間が長くなった」
そんな変化に気づいた時こそ、将来の健康への分岐点です。
噛むことは、最も身近で効果的な“脳トレ”。歯の本数を保つだけでなく、しっかり噛める環境を整えることが、認知症予防への第一歩です。
迷ったらまずは、信頼できる歯科医師に相談を。
「よく噛める=よく生きる」未来を、今日から始めてみませんか?